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松山地方裁判所 平成元年(わ)148号 判決 1989年7月19日

本籍並びに住居

愛媛県今治市通町二丁目三番地六二

会社役員

山之内寛藏

昭和七年一一月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井嶋眞一郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、営利を目的として継続的に株式の売買取引を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、昭和六一年分の所得は、雑所得(株式売買益)が一億九三一六万九四三六円、利子所得が七四万三一八九円、配当所得が三三六万六〇一〇円で、その他の所得を加えた同年度分の総所得金額は二億一〇〇七万二六八五円であり、これに対する所得税額は一億三二一一万九七〇〇円であるにもかかわらず、妻アユ子の名義を利用して株式取引を行い、取引回数の分散を図って株式売買益は非課税所得であるかの如く仮装し、継続して株式を売買していることによる所得の全てを申告から除外する等の行為により、所得を秘匿したうえ、昭和六二年三月一六日、愛媛県今治市常盤町四丁目五番地の一所在の所轄今治税務署において、同税務署長に対して、昭和六一年度分の所得は、雑所得並びに利子所得金額はなく、配当所得は二二八万四〇〇〇円(実所得との差額は一〇八万二〇一〇円過少)であり、その他の所得を加えた同年度分の総所得金額は一五〇七万八〇五〇円で、これに対する所得税額は一七一万二五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年度分の正規の所得税額と右申告金額との差額である一億三〇四〇万七二〇〇円の所得税を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  大蔵事務官の被告人に対する質問てん末書一四通

一  山之内アユ子の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官の橋本信行(八通)、永井剛に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書、雑所得調査書、株式売買回数及び売買株数調査書、利子所得調査書、配当所得調査書

一  国税査察官作成の報告書三通

一  日産証券株式会社法人部次長野村修史作成の申述書

一  和光証券株式会社今治支店長(五通)、東洋証券株式会社今治支店長、サイボー株式会社東京支店井田正昭、日産証券株式会社取締役社長、株式会社伊予銀行今治支店長(三通)、同西条支店長、株式会社広島銀行今治支店長(二通)、株式会社第一勧業銀行今治支店長、株式会社愛媛相互銀行今治支店長(二通)作成の各証明書

一  中央信託銀行株式会社加藤充彦(二通)、東洋信託銀行株式会社古川正治(二通)、三菱信託銀行株式会社証券代行部(伊藤明・六通)、安田信託銀行株式会社証券代行部サービス課(松本栄子)作成の「株式の異動及び支払配当金額照会」に対する各回答書

一  被告人作成の昭和六一年度分の所得税確定申告書一通(平成元年押第四七号の1)

(法令の適用)

一  罰条 所得税法二三八条一項(併科刑を選択する。なお、情状により同条二項を適用する。)

二  換刑留置 刑法一八条

三  執行猶予 刑法二五条一項一号

(量刑の理由)

国民が所得に応じて税を負担することは当然の義務であり、また我が国が採用している申告納税制度は、納税者の高い倫理性を前提としているものであるから、これに反し、不正の行為により税を免れる行為は非難を免れないものである。しかるに、被告人は、妻の名義を使用して株式取引きの回数の分散を図り、株式売買益が非課税所得であるように仮装して本件に及んだものであり、しかも秘匿した株式売買益を、更にマル優制度を悪用して留保、隠匿をしていたものであって、巧妙な手口で周到に準備した悪質な犯行というほかない。そして被告人は、一億九四九九万四六三五円の所得を秘匿し、一億三〇四〇万円余を脱税したものであり、脱税額は多額に上り、ほ脱率は九八パーセントに達する高率なものであって、被告人の所得が、被告人の資本と危険負担、被告人の才覚によることなどを前提として考慮しても、被告人の刑責は軽視できないものである。

しかしながら、被告人は、当然のこととはいえ、脱税額全額を完納し、かつ重加算税三九一九万円余、延滞税一六八六万円余を納付し、更に本件脱税に見合った地方税を納付しなければならない経済的な負担を負い、また本件により相応の社会的な制裁を受けていること、本件は常習的に犯されたものではなく、当該年度に特に株式売買取引きが多数回に及んだためである等の事情があること等の被告人に有利に解すべき諸点を斟酌し、主文のとおり量刑した。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 金子與)

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